当社は、非線形有限要素法構造解析の技術系解析コンサルティング会社です。
本解析事例は、斜面防災や重要施設への竜巻飛来物等の防護工を手掛けておられる東亜グラウト工業株式会社様からのご依頼に基づき実施したものです。解析事例の公表は東亜グラウト工業株式会社様の許諾を得て行っています。また本高速飛来物バリアシステムの実験とシミュレーションについては、土木学会 第11回 構造物の衝撃問題に関するシンポジウム論文集に東亜グラウト工業様から発表が行われていますのでご興味のある方は参考にして下さい。
本シミュレーションは、スイスで行われた衝突速度32.5m/sの鋼製飛来物が高速飛来物バリアに衝突する実物大衝突実験を再現したシミュレーションの事例です。多数の鋼製円形リングで構成されたRing Netと、網目の細かい高強度ワイヤーで構成されたTECCO Netを組み合わせた高速飛来物バリアに対して、鋼製飛来物が衝突した場合の変形挙動を、LS-DYNAによって解析しました。
解析モデルは実験結果を参考にして細かい調整を行い、ネット変形挙動や破断挙動、最大たわみ量、鋼製飛来物の損傷挙動などを高精度で再現することに成功しました。モデルの特徴は、柔構造物であるリングネット、テコネットの個々のネットの弾塑性変形挙動及びネットどうしのすべての接触とすべり摩擦挙動、フレームドロープにネットシステムを懸架するためのシャックルの滑り摩擦挙動を考慮したカーテンレールを表現してあり、飛来物衝突時の高速飛来物バリアの柔構造変形挙動を模擬することができます。また、ブレーキリングシステムの挙動も再現しており、衝突時に飛来物が有している高い運動エネルギーを、弾塑性変形によりエネルギー吸収する動作を考慮してあります。
本解析結果は、最終的に実物大実験の結果を高精度で再現することに成功しました。実験挙動を再現するために、シミュレーションモデルとして要求される多量の解析入力条件を、弊社のLS-DYNA運用の経験を踏まえて設定しました。ここで構築した数値シミュレーションモデルの考え方や設定は、個別部材の要素試験結果を踏まえて、4ケースの異なる条件の実物大実証実験の実験結果をすべて再現することができるように決定されています。1つの実験結果をシミュレーションで再現するために、工学的な論理性が破綻しかねない数値条件で強引に合わせ込みしただけのような怪しいシミュレーションモデルではなく、異なる条件であっても信頼性のある結果を得ることができるシミュレーションモデルに仕上げてあります。
ユーザーがLS-DYNAの持っている能力を最大限に引き出すことができれば、大規模で複雑な柔構造システムの解析評価にLS-DYNAが高い能力を発揮できることを示す実例と考えていただければと思います。
なお、リングネットやテコネットの高速飛来物の阻止能力は驚異的に高いのですが、高速飛来物バリアの設計及び施工について豊富な経験を有しておられる東亜グラウト工業様が個別の防護目的に対してより合理的なエネルギー吸収構造設計を行うことによって、ネットシステム全体で高速度飛来物の捕捉能力がさらに向上している点を付記します。
Keywords: Dynamic impact simulation, Crash simulation
Tool: Hyper Mesh v.13, LS-PrePost ver.4.3, LS-DYNA SMP and MPP Single Precision Win64
Nov-8-2016
Fig.1 FE Analysis model of the protection system for high speed projectile (Impact velocity 32.5m/s)
Fig.2 LS-DYNA 衝突解析モデル
Fig.3 飛来物衝突解析結果 最大たわみ時の変形 (maximum deflection)
Fig.4 Crash behavior
Fig.5 衝突挙動